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11.19 Sat

【掌編】誰も知らない


 吉野家で牛丼に七味唐辛子を振っていると、見覚えのある顔に声を掛けられた。
「うわ、久しぶりだな。高校の卒業式以来じゃないか? 10年ぶり?」
「え、何、お前この近くに住んでんの? あ、牛丼並盛、つゆだくで!」
 言いながら、彼は勝手に正面のテーブル席に腰を下ろした。
「先週末に引っ越してきたばかり。転職してさ」
「あぁ、なるほど。何やってんの?」
「税理士」
「あー、そういえば経済学部行ったんだっけ」
「そう。お前は?」
「吸血鬼」
「は?」
「だから、吸血鬼。あ、ありがとう御座います。いただきまーす」
 彼はとんでもないことをさらりと告白してから、何事もなかったかのように用意された牛丼に箸をつけ始める。
「……ゲームの話? そういえばお前、バイオハザード好きだったもんな」
「それはゾンビ。うん、美味い」
「ニートもしくはヒモ、ってことでいいか?」
「そうじゃなくて。お前、献血したことあるか?」
「何だよ急に。したことないけど」
「献血って、やる前に血液検査があるんだよね。献血に耐えうる血色素量があるかを確認しなくちゃいけなくて」
「うん、それは知ってる」
「その血液検査をするのが俺の仕事。毎日何十人もの人から血を抜いてる」
 なるほど、それで「吸血鬼」ということか。つまりは看護師の資格を持っているということなのだろう。彼が何の大学に進学したのか、全く覚えていなかった。そのことにほんの少しの後ろめたさを覚える。高校生の時は毎日のように顔を突き合わせて一緒にお弁当を食べ、休日ともなればゲームセンターやカラオケに行って遊んでいた。卒業して別々の大学に進学しても、友人であるという事実は何も変わらないのだと思っていた。
 その存在を思い出さなくなったのは、一体いつ頃からだっただろう。
「吸血鬼も大変だよ。人によって、血管の位置も太さも全然違うから。今みたいに寒い季節だと、血管も収縮して細くなっちゃってさァ。でも何回も刺し直しするわけにもいかないし。ホント、生きてる人間の身体って難しい」
「そういえば俺も健康診断で採血する度に「あなたの血管はやりにくい」って言われるな。最高4回刺し直しされたことあるぞ」
「マジかよ。お前難易度高いんだな。今度練習させてよ」
「残念ながら吸血鬼の人体実験には協力いたしかねます」
 冗談交じりに笑って見せると、彼も牛丼を食べる手を止めて笑い声を上げる。その笑顔に10年前の日々が重なった。
 しかし次の瞬間には年相応の社会人の顔を覗かせる。
「でも、冗談じゃなく献血には来てよ。冬は献血する人が減るんだよね。困る」
 息を抜くところはしっかりと抜く、けれども抜いてはいけないところでは誰よりも真剣に物事に取り組むことが出来る。彼のそんなバランスの良さを心地いいと思っていた。そしてそれは今でも変わることはない。そのことに何故だか酷く安心をする。
「じゃぁ次の休みの日にでも行くわ。場所、教えてよ」
「分かった。献血センターのアドレス送る。ライン教えて?」
「ちょっと待ってて」
 ポケットの中からスマートフォンを取り出して、ラインのアカウントを交換し合う。そうして目的のアドレスを探しているのか、スマートフォンを弄り始めた彼の口からこぼれ落ちてくる言葉。
「あー、でも、やっぱ嫌だな、お前の血。なんか、飲んだら辛そうだもん」
 ちらりとこちらに向けられた彼の視線は、七味唐辛子が山ほど掛けられた牛丼を見ていた。そういえば彼は高校生の時から辛いものが苦手であった。それにしても、一体いつまで吸血鬼ネタを引っ張るつもりでいるのだろう。いい加減にうんざりとしてきたが、彼がそのつもりならこちらにも考えがある。
「んなわけねぇだろ。……でも、まぁ、」
 そう言って勿体ぶるようにして言葉を止めると、彼はスマートフォンから顔を上げて真っ直ぐにこちらを見てきた。

「試してみるか?」





季刊ヘキTwitter企画より 第1回お題「吸血鬼」


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